05



「私実は仲居さんとこうやって喋ってみたかったんだよね」

 三太とふたりで来た道を青柳さんと並んで歩く。来るときから時間は少ししか経っていないのに、気温はかなり下がったようで、歩行者によって踏み固められた歩道はところどころ凍っていた。滑って転ばないように慎重に歩いていたので、青柳さんのさりげない告白へのリアクションが数秒遅れてしまった。

「……え、ええ! 私と? ってなんで?」
「えーだって仲居さんってクラスの子とあんまり喋らないんだもん。でも特に暗い感じじゃないし、どんな子なのかなって気になってたさ」
 そ、そうなのか。私ってそんなふうに見られていたんだ。というか、私って見られていたんだ。
「さっきも言ったんだけどね」
「え、うん」
「ごめんね。クリスマスパーティーのこと。……ていうか、まどろっこしいからはっきり言っちゃうけど! クリスマスパーティーのことっていうか、栗城くんのこと、失礼なお願いしちゃってごめんなさい!」
「あー、うん。それは、いいよ。うん、気にしてないよ。実際わりと慣れっこだし」

 慣れているのは本当だった。けれど、いつも気にしていないわけではなかった。
 だからといってきっと謝られても惨めな気持ちになるんだろうなと思っていた。けれども実際今、こうして初めて面と向かって謝られて、不思議と惨めな気持ちにはならなかった。謝られたことへ対して感情がついていかないのか、ただただ遠い出来事のように感じて、結果的にこんなそっけない返答をしてしまっていた。
 少しの沈黙の時間が溜まらなくなって、彼女へ今更だけどストレートに、尋ねた。

「栗城のこと、好きなの?」
「うん。一年生の時同じクラスになって、それからずっと」
「そっか、凄いなー、もてるんだあ」
「でもそれから別々のクラスになって、そのままあんまり喋ってなくて」
「ん」
「卒業する前にもう一回くらい話してみたかったなと思ってさあ。磯部ちゃんに話したっけ、じゃあクリスマスパーティーでもやろっか! ってことになって。みんな受験でイライラしてるのに、そんなの企画して大丈夫かなって思ってたんだけど、なんか意外と集まったよね」
「そうだね」
 さっきの受験生とは思えない賑やかな雰囲気を思い出す。青柳さんも思い出していたみたいで、ふふっと笑った。
「仲居さんは風が丘受けるんだよね」
「うん。ダメもとだけどね」
「でも最近凄い頑張ってるじゃん。順位も上がってるし、なんか励まされるよ」

 結局家のすぐ近くまで青柳さんは私のことを送ってくれて、その間学校のことや受験のこと、色々な話をした。

 私は、なんだか、とてもバカだった。今まで心のどこかで青柳さんのことを軽蔑していた。
 青柳さんだけじゃない、磯部さんや、他のクラスメイトのことも。

 青柳さんに「励まされる」と言われたときは本当に嬉しかった。

 所詮三太のおまけだと、一番思っていたのは私だ。
 心のどこかでいつも引け目に思って、気づいてみれば三太以外のあらゆる人にもよそよそしく接していたことに気がついた。受験のことだってそうだ。確かに公立大学へ行くことを目標にしているから志望校を変更したけれど、風が丘を受けるということで結局みんなとは違う、一緒になりたくないんだって心のどこかで意地を張っていた気がする。
 そんなんだから私から、三太に、みんなに、距離が出来ていて。
 歩み寄ろうとしなかったのは私だったのだ。

 パーティー、戻ろうかな。今日ならなんだかいつもより素直になれそうな気がした。玄関に背を向けて会場へ戻ろうと振り返る、瞬間。

「茜、避けろー!」

 冷たい塊が顔の前で、中で、はじけて溶けた。