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 一度置いた鞄をまたすぐに肩へ戻して、そろりと帰ろうとしたその時、意外な人に声を掛けられた。

「え、仲居さん、どこ行くの?」

 見つかってしまったその相手は、一応私を誘ってくれたうちの一人の、青柳さんだった。しまった、私が来ていたことに気づいていたのか。あ、えっと、その、と見つからない言い訳をもごもご喋ろうとしたけれど、良い言い訳が一つも見つからずに結局、「か、帰ろうかなあと思って」と言ってしまった。

「ごめんね、仲居さん忙しそうだったのに、私無理矢理誘っちゃったよね」
「いや、本当に今日は用事はなかったんだけど」
 しまった、完全に墓穴を掘っているぞ、私。じゃあなんで帰るのって話になってしまう。それでも青柳さんは怒りもせずにこう言ってくれた。

「私、仲居さんを困らせるようなお願いして、ごめんなさい」

 それって……。

 私は青柳さんは三太のことしか見ていなかったのかと思っていたけれど、ひょっとすると彼女は私が思っているよりも周りの人に気のつくタイプなのかも知れない。

「仲居さん帰るなら、私少し送ってもいいかな?」
「それは悪いよ!」
「ううん、いいの全然大丈夫。会場はほら、磯部ちゃんが盛り上げてくれてるし」

 そう言われて青柳さんが指差す方向を見ると確かに磯部さんはサンタクロースの帽子を被ってノリノリだった。ゲームか何かを始めるのか、一人一人にカードのようなものまで配っている。せっかく誘ってくれたのに勝手に帰ろうとしている私を送る、とまで言ってくれて。その申し出をさらに断る権利はないと思ったので、私は青柳さんに送ってもらうことにした。