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「茜、今日はベンキョーしなくていいの?」
「まあ、息抜きってのも必要なんですよ」

 三太とふたりで雪の積もった歩道を縦になって歩く。この時期夕方の四時にもなるとすでに陽は落ち暗くなっていたけれど、足下の雪に外灯が反射して辺りはぽやんとオレンジ色に染まっていた。

 クリスマスパーティーの話を三太にすると、賑やかな雰囲気が大好きな三太はすぐに行くと言うと思ったのに、「茜が行くなら行く」と言われてしまった。少し迷ったけれど、二人して行かないなんてことになったらどんな噂をされるかわからないし(磯部さんあたりに)、色々と恨まれそうなので(主に青柳さんに)、乗り気ではなかったけれど出掛けることにした。

 磯部さんの家の、神社にある社務所へ着くと、中央にでんと構えたクリスマスツリーの周りを囲んで、すでにクラスの三分の一程の人数が集まっていた。他のクラスの人も少しだけ、居た。みんな「勝負の冬」にも関わらず、持ち寄ったお菓子を食べたり、お喋りを楽しんだり、大騒ぎしている。
「受験生な割りに意外とみんな余裕なんだな、って俺らもか」
 三太が言う。君の隣には全然余裕がないのに来てしまった人がいるんですが。当然そんな人は私以外見当たらず、集まったメンバーは緑陵進学希望のゆるい受験生が主で、さらに推薦が決まっている人も多かった。そのことは最初からただでさえ乗り気じゃ無かった私の居心地の悪さにより一層拍車をかけた。

「あ、栗城くん!」

 磯部さんが大きな声でそう言うと、最悪なことにみんな三太の存在に気づき始めた。やっぱりクリスマスはサンタがいないとな! なんて言われて、三太もにやにや嬉しそう。あっという間に三太はみんなに囲まれて、ツリーの近く、パーティー会場の真ん中の方へ連れて行かれた。一緒に来た私のことなんて、きっともう、忘れてる。みんな私に気づきもしなかった。

(何しに来たんだろう)

 はじめから楽しみでもなかった私の気持ちは、会場へ着いたとたんマイナス方向へ振り切れてしまった。これじゃあまるでサンタクロースをみんなの元へ運ぶためのトナカイじゃないか。ばかばかしい。

(こっそり帰っても、誰も気づきはしないよね)

 家に帰って予定通り勉強しよう。私は着いて十分もしないけれど帰ることにした。会場の中央にいる三太はみんなに囲まれて、にこにこ幸せそうな顔をしている。その顔は昔からちっとも変わってなんかいないのに、私たちはどんどん遠いところへ離れていっているように思えた。きっと物事を深く考えていない三太には、私の不機嫌の理由も分かるまい。あとで何か聞かれたら適当に、お腹が痛くなって、とか言っておこう。聞かれないかもしれないのに、言い訳ばかり考えて、あああ、ほんとうに。なんてばかばかしいんだろう。