キラキラ



 あいちゃんは明るい。
 黒い髪のベリーショートがよく似合う。
 耳たぶで揺れるピアスもよく似合う。
 たまにみせる赤い縁のメガネ姿もよく似合う。
 わたしはおしゃれにうといほうなので、
 あいちゃんのそういうところに、憧れる。

 あいちゃんとはパン屋のアルバイトで知り合った。
 同じ時期に入ったのはわたしとあいちゃんだけで、
 自然とよく話すようになったのだ。
 仲が良いっていえば仲が良いけど、
 だからといって、バイト以外で遊ぶことはほとんどなし。
 面と向かって

 「私、もしリコちゃんと同じ学校だったら、きっと仲良くなれなかったと思う」

 なんて言われたこともある。
 もちろん悪気のある言い方じゃなくて、
 素直な気持ちで言ったんだと思う。
 あいちゃんのそういうところもまた、憧れる。


 「リコちゃん!」
 ガラスの向こう側であいちゃんに呼ばれる。
 「待った?」
 「待ったけど、おかげで面白い本立ち読めたよ」
 「あはは、良かった」
 「でもいいところであいちゃん来たからちょっと不満です」
 あはは、もーリコちゃんてばと言いながらも、
 「ごめんね」
 って謝るあいちゃん。そんなに簡単に謝らなくてもいいのにな。

 「珍しいね、あいちゃんから誘って来たの」
 「というか、実は初めてなんだけど」
 「うん。実は知ってた」
 今までバイト先以外であいちゃんに会うときは、
 他のバイト仲間と一緒だったのだ。
 だから二人きりで会うのは今日が初めて。
 「どうしたの?」
 「んーべつにー」
 とはぐらかされる。
 今日は珍しくメガネ姿。


 「今日はメガネなんだね」
 ショッピングモールに入って、
 雑貨屋さんや服屋さんをぶらぶらしたあと、
 わたしたちはその中にあるコーヒーショップに入った。
 「うん。本当はコンタクトの方が好きなんだけどね」
 あいちゃんが一口、カフェオレを飲む。
 「どっちも似合ってて羨ましいな。わたしメガネ似合わないもん」
 「え、リコちゃんていつもコンタクトなの?」
 「そうだよ? 知らなかった?」
 「知らない! 初めて聞いた!」

 きっと、知らないことだらけなんだろうね。

 あいちゃんはそう呟いて、また一口、カフェオレを飲んだあと、
 そっかー、コンタクトなのかーって、繰り返しぶつぶつ言って、
 あははって笑った。

 それから二人でバイト先の話や、近頃のニュースの話をした。
 とりとめのない、他愛のない話。
 あいちゃんの話に同調しながらわたしは、
 わたしが今日誘われた理由についてを、ぼんやりと考えていた。
 なんだか今日のあいちゃんは、いつもよりちょっぴり遠くに感じる。


 「今日はありがとう。楽しかった! 急に誘ってごめんね」

 わたしは、こういう、ちょっとした気の利いたことが
 すっと言えるところがあいちゃんらしいと思う。
 「あいちゃんてさ、何気にそういうとこ、すごいよね」
 えーなにー? っていいながらまたあははって笑った。そして、
 「でも、ありがとう」
 「ほら、また」
 あいちゃんはよくわからないって顔をして、
 わたしはそれがなんだかおかしくなって笑った。

 「じゃ、また、土曜日に」
 わたしがそう言うと、あいちゃんはバイバイって言って歩き出す。
 それしか言えない自分と、だんだんと遠ざかるあいちゃんの背中が、
 なんだか急に切なくなって。

 「あいちゃん!」

 「元気出してね!」

 気づいたら、そう叫んでた。
 自分でもちょっとびっくりするくらいの大きさの声で。

 あいちゃんはちょっと驚いて呆然とした後、
 あははって笑って、こう叫んだ。

 「リコちゃんてさ、何気にそういうとこ、すごいよねー!」

 夕焼けのせいであいちゃんの表情は真っ赤に染まって、
 よく見えなかったけれど、
 わたしにはいつものあいちゃんの顔に見えた。

 あははってよく笑う、わたしの憧れの女の子。