水曜日はレディースデイ



 女の子はすぐ泣く。
 おまけに泣くのが好き。

 生き物というものが、眠ったり、食べたりしないと生きていけないのと同じように、
 女の子は泣かないと生きていけないのだ。


 今日は水曜日。あたしは今日も映画館へ向かう。
 行きたくて行きたくてしょうがなくて、学校を早退して、平日の映画館へ向かう。

 映画が特別好きなわけじゃない。
 でも、それなりに感動的だから、涙が出る。
 あたしは生き抜くために、今日も映画館に入る。

 いくら今日が水曜日で、俗に言うレディースデイだと言っても、
 こんな真昼間から映画を観る人なんて、あんまりいない。
 「当然あたしみたいな女子高生はいるはずなんてない」
 ――そう思ってた。
 三ヶ月めに入ったとき、一人の制服姿の女の子を見た。
 白のセーラー。同じ市内のY女子高の制服。

 今日もいた。
 あれからもあたしは映画館に通い続けている。
 きっと、あの子も通い続けている。
 毎回会うワケじゃないし、全く会わない月もあった。
 でも、あの子は今、ここにいる。

 声をかけようとは思わなかった。席だって、いつもそれなりに遠かった。
 あの子は、背が小さい。
 あの子は、色が白い。
 可愛くも、ぶさいくでもない。どこにでもいる普通の子。

 あたしのことを気づいているかどうかもわからない。
 あたしが気づいたのが遅かっただけで、
 あの子はもしかしたらあたしよりずっと前からここに通っているのかもしれない。


 映画は佳境に入る。
 主人公の恋人が死んだ。
 テーマ曲が入る。
 人々は涙する。
 あの子も涙する。
 あたしも涙する。

 ――この瞬間のために、あたしは今日学校を早退したのだ。

 あたしは別に今の生活に不満があるワケじゃないし、
 幸せだとすら感じている。それでも毎週ここへ通って涙を流したがる。
 「泣くのが好き」だなんて、友達が聞いたら気味悪がるだろうか。
 「普通」じゃないんだろうか。あたしは変わった人間なのかもしれない。
 そう思うと少し胸がきりりとした。

 あの子を見つけるまでは。


 映画が終わった。人々は立ち上がり、帰路へつく。
 あの子も立ち上がる。
 あたしも立ち上がる。

 今日は水曜日。俗に言うレディースデイ。レディースデイは、女の子が泣いてもいい日。

 女の子は泣くのが好き。
 きっと、あの子も。泣くのが好き。