混沌クッキー



 突然思い立った。
 「クッキー焼こ」
 作り方の本を見たけれど、
 冷蔵庫にはそこに載ってる材料がぜんぜんないから、ありあわせ。
 バターの代わりにマーガリンでもいいのかな。いっか。
 ひたすらに混ぜ合わせる。ひたすらに。
 バターの代わりのマーガリンも、混ぜてしまえばわからない。

 同じに、溶けた。

 こんなん、大したことない。
 いつもと同じことで。
 慣れるまでが大変なのは、いいかげんわかっていること。
 溶けてしまえば同じなのに。

 「あー。混沌。カオスだわカオス」

 もういいかげん慣れるまでに慣れればいいのに。
 あたしはちっぽけだ。
 でもこの気持ちに慣れることさえできない。何回繰り返しても。

 冷蔵庫で30分冷やした生地を、オーブンできつね色になるまで焼く。
 「それ」がだんだんクッキーになっていく様は
 目が離せなくて、夢中になった。
 ひさしぶりに、いろんなこと、忘れた。

 ありあわせクッキーはありあわせのわりにとても美味しく出来上がった。

 「こんなにたくさん、食べきれないや」

 可愛い袋に入れて明日みんなに配ってみようか。
 ありあわせじゃ失礼かな。
 ならばいっそタッパーに入れていこっか。
 ちょっとのワクワクと、極度の緊張も一緒に詰め込んで。
 勇気の出る私だけの呪文を唱えて今夜は眠ろう。

 「明日という日は、明るい日!」